
人生のジャックパーセル
Vol.1 Gaku Sakomura
誕生から90年を迎えたジャックパーセルは、「歴史へのリスペクトと未来への継承」をコンセプトに、自らのものづくりを見つめ直し、「ジャックパーセル 1935」をローンチしました。このシューズと同じように、ルーツを大切にしながら次の一歩を選び続けてきた人たちに、自身のファッションの遍歴や仕事に対するプライドを尋ねました。紡ぎ出される一つ一つの言葉は、このシューズの魅力と重ねることができます。
アメリカ文化への入り口だった
初めてジャックパーセルを買ったのは中学に入学してすぐ。真っ白の靴じゃないとダメという校則があったので、その時の選択肢になりました。でも、見ての通り、つま先が青いじゃないですか。だから学校から注意は受けましたが、それを気に入って買ったので。ちなみに制服は、ブレザーにポロシャツ、ブラックウォッチ風のパンツでした。
それは初めてのコンバースでもありました。小学生の頃はサッカーをしていたので、大学生のコーチが履いていたプーマやアディダスを真似していました。多くの人はオールスターが最初になると思うのですが、僕はそういった事情もあったし、その靴がもっているストーリーなどを知ることなく手に取りました。ただ、履いていると興味を持っていろいろ知りたくなるもので、結果的にアメリカの文化の入り口になったと思います。

その後、アメ村とかに行くようになって、古着店のお兄さんやお姉さんが履いている姿を見るようになり、なんとなく悪くない選択をしたな、と思いました。高校生になってからは、古着からファッションに入ったので、なんとなくジャックパーセルがカート・コバーンと結びついている感覚はありましたが、僕のアイコンは裏原宿のカルチャーであり、藤原ヒロシさんだったかと思います。レザーの黒のジャックパーセルを、ボロボロのジーンズに合わせていた姿に影響を受けました。当時、大阪にロンディスというお店によく行っていたのですが、そこに集まるお客さんも、アンダーカバーのニットやシャツに黒いジャックパーセルを履いていたりして、その憧れがさらに大きくなった感じです。
僕の世代だと、古着やグランジのイメージが強いジャックパーセルですが、靴単体で見ると、清潔感があります。オールスターと比べると、バスケとテニスの違いでしょうか。だから今日のように、セットアップやスーツなどに合わせる感覚で履くとよいのかなと思います。白いスニーカーって、少しトレンドから遠ざかりましたが、再びこんな気分も良いなと思いました。そう思わせるのが、新しいジャックパーセル 1935だと思います。昔の木型に近くなっているな、と感じるように、革靴のような品があります。ぎゅっと紐を縛って履く、そのカルチャーは今も抜けていません。

曖昧な表現になってしまいますが、以前のジャックパーセルはどこか物足りなさを感じていました。よくコンバースさんとも別注の時にもっとトウを分厚くできないか、とか反り上がってしまうつま先をもっとフラットにならないか、とか話していました。コンバース アディクトのジャックパーセルは、僕が知っているアメリカ製とはまた違う解釈で作られているけど、それに感じていた高級感とか重厚感みたいなものは、ジャックパーセル 1935でも表現されていると思います。シューレースの細さのバランスとかは、かなりいいんじゃないでしょうか。
ビオトープでもたくさんコンバースで別注させていただきました。もう10年くらいのお付き合いになります。他所のショップやブランドが、基本的にオールスターで別注しているイメージがあったので、被りたくなかったのと、自分が好きなことが重なって初回からジャックパーセルを選びました。ヨーロッパで見かけて気になっていた、トウキャップのないスリップオンがベース。よく通っていた古着屋の当時のスタッフだった方もヨーロッパ企画のそれを履いていた記憶があります。それを黒のスエードや、シボ入りのレザーで作ったのですが、すごく評判がよくて。今でももう一回作ってほしいとリクエストされることも多いです。

日本独特のカルチャーに育てられた
いつでも、今日はどの靴を履くか、という選択に選ばれるようにならないといけないので、ファッション文脈の人たちがいかに手に取りたくなるか、が大事だと思います。僕はデザインポイントが多い靴は、どうも足元だけ浮いてしまうイメージがあって得意ではありません。学生の頃からのデニムをベースにファッションを組み立てる癖がついているので、ローテクでシンプルなものばかりを好んでいます。つまり靴単体のカルチャーというより、ファッション軸で捉えているということでしょう。
僕に染み付いているジャックパーセルの履きこなしは、グランジファッションが根底にはあると思うのですが、極めて日本独特の解釈だと思います。それと、レザーパンツや1インチアップしたレザーのショーツなどに合わせても良さそうです。これも結局は、裏原宿を通った感覚ならではかもしれないですが。


あと、個人的に女性にもぜひ履いてもらいたいスニーカーです。スラックスにさっと合わせている人をみると素敵だなと思います。ただそれも、この靴に “品はあるけれどメンズらしさ”をずっと感じているから、レディス特有の「ハズし」が、素敵に見えるのかもしれません。ジャックパーセルは、年齢を重ねても自然と選択肢に入るスニーカーです。今また履けば、今までと違うコーディネートをしたくなったり、今までと違う洋服が欲しくなると思います。

迫村岳
Gaku Sakomura
1978年生まれ。2001年にジュンに入社し、大阪の「アダム エ ロペ(ADAM ET ROPE')」でショップスタッフの経験を積む。アダム エ ロペとビオトープ事業を統括する事業責任者兼クリエイティブディレクターを経て、現在はビオトープのクリエイティブディレクターを務めながらジュン社の常務取締役に従事。
STAFF CREDIT
Photography_Asuka Ito
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)