More Than New JACK PURCELL.
人生のジャックパーセル

Vol.6 Shuta Hasunuma

誕生から90年を迎えたジャックパーセルは、「歴史へのリスペクトと未来への継承」をコンセプトに、自らのものづくりを見つめ直し、「ジャックパーセル 1935」をローンチしました。このシューズと同じように、ルーツを大切にしながら次の一歩を選び続けてきた人たちに、自身のファッションの遍歴や仕事に対するプライドを尋ねました。紡ぎ出される一つ一つの言葉は、このシューズの魅力と重ねることができます。

良い素材と人の知恵が重ねられた
シンプルで原理的なものは美しい

高校生の頃、スケートボードでジャックパーセルを履いていました。その頃はもっとボリュームのあるシルエットがファッションでも流行っていましたが、ジャックパーセルというか、スケートシューズじゃないもので滑るのがかっこいい、みたいなプチブームが周りにありました。新品か古着かも覚えていませんが、僕が履いていたのはキャンバスの迷彩柄で、今日みたいな太いシルエットのパンツに合わせていました。

昔からあるスタンダードなもの、という印象があります。新しいものが次々と生み出される中で、ずっと存在している。しかもセレクトショップにも古着店にも、どこでも置いてあるってすごいことだと思います。シンプルでミニマルだけど、よく見るとちゃんと主張は感じる。楽器も同じです。ギターもバイオリンも、時間をかけていい音が鳴るように突き詰めた形状には無駄がない。原理としてシンプルだからこそ、いい素材と人の知恵が重なったものは美しいです。

長く付き合えるシンプルなものが定番であり、同時に長く付き合うことでそうなるものも多い。例えばこの70年代の性能で作ってもらったシンセサイザーを、僕はもう20年くらい使い続けています。楽器と同じように、いいシンセはデザインもインターフェースもいい。とても原理的に音を出す仕組みだからこそ、スタンダードになっていく感覚があります。

しかし年齢の影響か、定番の概念や基準は変わってきました。例えばこのヘッドフォンに出会って、以前なら「長く付き合っていきたい」と思っていたものが、最近では「いつまで一緒にいられるか」と未来から逆算して考えるようになりました。大切に接したい、という気持ちは変わりませんが、時間の捉え方は変わりました。


昔は譜面を手で書いて作曲と言われてきましたが、テクノロジーが進歩した今は、既に録音されたものを使って曲を作る時代です。しかしどんなに音色が変わっても、偉大なマエストロも作曲家にも、それぞれの音の構造があるように、僕の曲にも変わらない構造みたいなものがあります。音は見えないものなので言語化がしにくいのですが、例えば僕がロックバンドみたいな編成の音楽と、オーケストラみたいな音楽を作っても、全然違うのにどこか繋がっているはずです。それは構造というか、耳障りが似ているからです。僕自身は変わっていくことを肯定したいけど、なかなか根本は変わらない。でもそこがいいのかもしれない。 

つまりそれを作るための技術が変わっていても、芯が同じであれば定番といえる。それは今回のジャックパーセル1935にも言えることだと思います。構造にオリジナリティがあれば、どんなアレンジをしても、化粧を加えても印象は変わらない。ジャックパーセル自体もこれまでいろいろなメディアで掲載されて、時代の色に染まっていたけど、きちんと一つの存在として続いている、理想的なシューズだと思います。

未来に響くものを作るために
削ってはいけない領域がある

現代は、余計なものをどんどん省いてクリエーションしていくし、その分、たくさんものを作らなくてはいけない。それは音楽も同じです。しかし、その時にしかできないことをわざわざ作品にしているので、手は抜きたくないし、徹底的にこだわりたい。ずっと残る作品を作るためには、削ってはいけない領域があると思います。自分が満足いくまで作っていくことが、質を保つということになるのでしょうか。

時代によって、社会がどういう音を欲しているか、というなんとなくのトレンドはあって、今の音に変わっていくと思うんです。だから80年代の音は、そのときレコーディングされた、ということに意味があるんです。その時代の機材やスタジオや、空気感を再現することはできないから、徹底的にこだわって作っておけば、30年後に聞いてもその時代を感じとれる、響くものになるんじゃないか、未来でも再生できるんじゃないかって思っています。

この靴、すごく履き心地がよくて驚きました。普段はテック系のスニーカーを履くことが多く、革靴でもしっかりとした厚みのある作りを選ぶことが多いのですが、それらと同じくらいの柔らかさがあって、予想していたイメージとはまるで違いました。僕が覚えているジャックパーセルは、板みたいなソールですが、そこがいいんじゃないかという節も記憶の片隅にあって。今回もそういったものかなと思っていたら、すごくこだわっていて現代的になっていました。

心地よいものとは、時間を忘れるもの。音楽のジャンルだと反復性のあるミニマルミュージックでしょうか。繰り返されることで今どこにいるかわからない気持ちよさの拡大解釈が、アンビエントミュージックかもしれないし、ヒップホップも基本的に反復の音楽です。その中に存在する不規則なもの、ルール外のもの、ちょっとしたエラーがすごく気持ちよかったりもします。グレン・グールドのピアノの作品を聴いていると、息継ぎがよく聞こえます。それはグールドが次のアクションに映る儀式的なものかもしれません。ミニマルな美しさの中に生まれるノイズというか違和感は、やはり心地が良いです。

今日は雪が降りましたが、この靴を履いて外に出たくなりました。あたたかい空気を吸いたい時に、ジャックパーセル1935で歩いてみたい。カジュアルに、でもカジュアルすぎず、ちょうどよいバランスです。

蓮沼執太
Shuta Hasunuma

1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外での音楽公演、多数の音楽制作を行なう。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンスなどを制作。主な個展にニューヨークでの「Compositions」(2018),2018年開催の東京・資生堂ギャラリーでの個展「 ~ ing」で第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2026年、デビューから20年という節目の年を迎え、8月にサントリーホールでの公演が決定。

STAFF CREDIT
Photography_Asuka Ito
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)