More Than New JACK PURCELL.
人生のジャックパーセル

Vol.7 Michihiko Kurihara

2025年に誕生から90年を迎えたジャックパーセルは、「歴史へのリスペクトと未来への継承」をコンセプトに、自らのものづくりを見つめ直し、「ジャックパーセル 1935」をローンチしました。このシューズと同じように、ルーツを大切にしながら次の一歩を選び続けてきた人たちに、自身のファッションの遍歴や仕事に対するプライドを尋ねました。紡ぎ出される一つ一つの言葉は、このシューズの魅力と重ねることができます。

バイイングは「負けないギャンブル」
そして情熱を傾けるリアルなRPG

16歳で、古着の業界に足を踏み入れました。稼いだ給料をすべてつぎ込むほど古着が好きで、当時、千葉の津田沼にあった古着店によく通っていました。そのお店の店長とバイヤーが兄弟で、彼らが独立して北習志野に新しいお店を出すということで、手伝うようになりました。オープンまではオーナーがアメリカで買い付けたものをフリーマーケットで売って資金を稼いでいましたね。当時はすごい古着ブームで、代々木公園や新宿の野村ビルなどで、1日100万円とか普通に売れていたような時代。そうして18歳で初めてアメリカへ買い付けに連れて行ってもらいました。

その後、店名を「ロストヒルズ」に変えて津田沼に移転、2000年には原宿にもお店をオープンしました。そこで約10年間働き、その中でいろいろな人と古着に出会いました。とくに自分で店を持ちたい、といった強い気持ちはなかったのですが、いろいろな人とのご縁と繋がりに恵まれ、2018年横浜に「Mr.Clean」をオープン、2020年には富ヶ谷に移転し、現在に至ります。

とにかくアメリカに行って買い付けをし続けたい、という思いで独立しました。業界に足を踏み入れて30年以上が経ちますが、今も、デッドストックを見つける夢を見て、目が覚めてから夢であることに落ち込むこともあるくらい、宝探しに魅了されています。過酷な道中をわかっていながら、今もアメリカに行く前はワクワクしています。最近は9週間の買い付けを年に2回する程度で、一年の半分をアメリカに過ごしていた頃より短くなりましたが、「古着を買う」ことだけに100%集中できる環境が、精神的にすごく楽です。英語で人種や年齢を超えたダイレクトな関係性や、ストレートに交渉できるところも性に合っています。そして買い付けとは経験と知識の蓄積が、運を確率に変えていくと思っています。だからここ20年間、仕入れで失敗したと思ったことはありません。僕にとって「負けないギャンブル」のようなものです。あと知らない街へ行き、街の人から情報を得てお宝を探すプロセスは、まるでロールプレイングゲームをリアルに楽しんでいる感覚です。

経験に裏打ちされた「触覚」と
現場で繰り広げられる情報戦

とはいえ、買い付けは決して綺麗事だけではない、ある種の厳しさが伴うビジネスの場でもあります。例えば、同業者と重なるメジャーなエリアをどう過ごすか。自分にとっては要らない商品でもディーラーとの今後の関係性やその後に来るバイヤーのことなども考えて購入したり、現場での観察眼や判断も重要です。店の前にあるタバコの吸い殻や、駐車場に停まっているレンタカーを見ただけでそれが日本のバイヤーのものかも大体わかるので、それによってルートを組み直したり、また自分の現在地を特定されない動きをすることも。情報戦を常に意識しています。

ヴィンテージしか見てこなかった時代と違い、買い付けの幅が広がりました。以前だったらピックアップしてないブランドや年代のものでも、今になって良く思えるものもあります。古着にもトレンドのサイクルみたいなものはあって、10〜12年くらいで一回りしている感覚です。そう考えると、僕はこの業界で2〜3周しているので、見る目もある程度養われてきたと思います。

だいぶ歳をとって、若い頃に比べて柔軟になりましたが、単純な流行りとか、見た目の良し悪しだけで選ぶことはなく、それが作られた背景や、当時のカルチャーなどを知ることで思い入れが一層深まるので、一度好きになった古着を嫌いになることもない気がします。あと、自分が嫌いなものは基本、店にはありません。SNSやAIが発達し、写真一枚で何でもインターネットで調べられる時代ですが、実際に触ってみないとわからないことばかりです。視覚だけではなく触感を使って素材の判別をすることもありますし、ことコンバースに関しては、目隠しをしても触っただけでアメリカ製かどうか、その年代をある程度言い当てる自信があります。キャンバスの質感やラバーの厚み、細かなシェイプの違いが、手に体に染み付いています。そう思うと、昔を知っているという経験と皮膚感覚が大きなアドバンテージになっています。

安直に古さを求めすぎるより
リアリティのあるバランスを

ジャックパーセルはコンバースの中でも一番好きなスニーカーです。オールスターをみんなが履いている反動という天邪鬼的な魅力があります。10代後半の頃はアイビースタイルが好きで、ボタンダウンのシャツにホワイトリーバイスで、足元はローカットのスニーカー。くるぶし丈のパンツにキャンバスのローカットのスタイルが好きで、ジャックパーセルは本当によく履いていました。とはいえ最初に買ったのは95年とかで、たしか黒のレザーでした。当時、裏原宿の人たちが黒をよく履いていたんですが、バドミントンシューズのルーツを持ちながら黒という捻ったところが好きです。今日は60〜90年代のデッドストックをいくつか持ってきましたが、他に全部で40足ほど所有しています。

経年変化等もあり、古いスニーカーはどうしても履いていて疲れます。年齢を重ねた今の僕には、見た目の美しさを保ちつつ、「楽な履き心地」も必要。だから、新しくなった「ジャックパーセル 1935」はバランスがいいです。あと、個人的にはこのベージュのスエードに90年代を感じました。安易に古い年代のヴィンテージに寄せすぎないほうがいやらしくない、というか「嘘くさくない」クオリティがある気もします。90年代のコンバースは日本で企画されたデザインが多かった。ちょっと捻っていて、でもそこにリアリティがあったのがよかった。そもそも人と違うものや今ないものが好きなのが、古着好きの本質なので。

長く古着を生業として、ルールや固定観念に縛られていた時期もありましたが、今は年代やトレンドに対しても柔軟になりました。何十年も同じものを見続けていると、この先何を目指すべきか考える時もありますが、この一足にはジャックパーセルが持つ普遍的な良さが宿っています。今の気分で履き、街を歩き、この新しいジャックパーセルを楽しみたいと思います。

栗原道彦
Michihiko Kurihara

1977年生まれ。ヴィンテージバイヤー、東京・富ヶ谷のヴィンテージショップ「Mr.Clean」オーナー。16歳で古着業界に入り、約30年にわたってアメリカでバイイングを続ける日本を代表するヴィンテージバイヤーの一人。現在も年間の約3分の1を渡米して買い付けに費やし、豊富な経験と審美眼で選び抜かれたアイテムは、国内外のファッション関係者から厚い信頼を集めている。

STAFF CREDIT
Photography_Asuka Ito
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)

JACK PURCELL 1935