More Than New JACK PURCELL.
人生のジャックパーセル

Vol.2 Yuichi Toyama

誕生から90年を迎えたジャックパーセルは、「歴史へのリスペクトと未来への継承」をコンセプトに、自らのものづくりを見つめ直し、「ジャックパーセル 1935」をローンチしました。このシューズと同じように、ルーツを大切にしながら次の一歩を選び続けてきた人たちに、自身のファッションの遍歴や仕事に対するプライドを尋ねました。紡ぎ出される一つ一つの言葉は、このシューズの魅力と重ねることができます。

ヒップホップの引用と再構成が
デザインの基盤になっている。

子どもの頃、部屋を改装するタイミングで、「好きに落書きしていいよ」と親に言われて、スプレーで壁に大きな絵を描いたんです。大胆に線を描く時に味わった、楽しさと緊張感の入り混じりにすごく興奮して。そこからグラフィティが好きになり、ヒップホップのカルチャーに浸かりました。RUN-DMCが初来日した1980年代の半ばを過ぎた頃には、スニーカーに興味を持ち始めていて、下北沢のお店に通ってたくさん買っては、彼らのスタイルや履きこなしを真似した思い出があります。

音楽も好きになり、レコードを買ったり、友達とクラブに遊びに行ったりする中で、おぼろげに自分の人生を考えるようになったとき、やっぱり好きなグラフィティを将来に活かしたいと思ってデザインの専門学校に通いました。そこで立体的なものを頭の中で考えることが好きなことに気づき、プロダクトデザインを選択することに。ATCQ(ア・ トライブ・ コールド・ クエスト)の好きなジャケットの影響もあって、眼鏡の業界でデザインの道に進みました。

自分の経歴と眼鏡に一貫性はないように思えますが、すべてはヒップホップのサンプリング文化が根底でつながっています。僕にとってヴィンテージのフレームをそのまま作るのは再現でしかなく、ストレートにコピー&ペーストすることには違和感を覚えます。しかしサンプリングは、自分の育った環境や、見たり聞いてきたもの。つまり自分の経験や美学を投影することで初めて出来上がる。その繰り返しが文化を築く作業だと思います。YUICHI TOYAMA.の眼鏡をデザインするときも、常に意識していることです。

好きを貫き続けることは
自分の価値観を試す行為

小学生の頃、オールスターしか履かないと決めていた父の友人がいて、すごくかっこよかったんです。中学生になると、それまでスペック重視だったスニーカーにみんながおしゃれを意識するようになり、安いスポーツ店を探し回ってオールスターを買っていました。大人になって、アメリカで日本未発売のスニーカーを何十足も持ち帰ったりしていたんですが、好きなものをずっと履き続けていた父の友人を思い出しました。シンプルなものを、ずっと買い続けるスタイルを自分も持ちたくて、ジャックパーセルを買ったんです。それが90年代の半ばくらいでしたでしょうか。それからもう20足以上。白ばかり買い続けています。

自分の中で一生それが好きでいられないと、どこかで「僕はこれが好き」と人に言うのが恥ずかしい気持ちがあります。ファッションも音楽も流行り廃りがある中で、同じものを履き続けたり、聞き続ける行為は、美学や価値観をちゃんと持てているのか、自分の軸があるのかを試しているのかもしれません。

とはいえ、自分の中の基準は良い意味で変わっていくべきだとも思うんです。小難しい年配者にはなりたくないですしね。たまにはミーハー心でレアなスニーカーが欲しくなる時もあります。しかしそれは「ずっと好きなもの」にはならない。好きなものに文脈の繋がりはもたせるようにしています。それが僕にとってはジャックパーセルで、自分の眼鏡と近しい存在です。

この歳になると、自分の見た目や価値観が変わり、今まで好きだったものが似合わないと感じることがあります。そうならないように僕は“一人の時間”を意識的に作るようにしています。美術館の展示をみたり、好きな建築を見に行ったり、年齢を重ねるほど内的なインプットの大切さに気づきました。また、近しい間柄とのコミュニケーションで自分の思っていることを言語化したり、若い人たちとの会話を楽しみながら、自分の基準をアップデートさせることも大切です。もう体重を落とそうと思っても簡単には落ちないし、年齢に抗うことはできなくなる。だから外見より中身を磨くことで「履いてどう見えるか」より「なぜこれを選んだか」を表現できるようになりたいと思っています。自分の軸を守ることで、少しずつ落ち着いてできるようになりました。

シンプルと無味無臭は非なるもの
ジャックパーセルには癖がある

素材ときちんと向き合っているものに惹かれます。シンプルであればあるほど、それが問われるからです。眼鏡であれば例えば素材をどう選ぶのか、断面をどうカットするか、メタルをどう入れるのか。デザインのプロセスで、そういう素材の見せ方には作り手の苦悩や工夫が必ず介在し、それを見つけたときに心が掴まれます。美術館などで絵画を見ていても、筆の跡や下地の色とか、この作家はこの瞬間に何を考えていたのか。そんなストーリーを想像して、頭を駆け巡らせています。ジャックパーセル 1935も、どうして90年も前にスマイルやヒゲといった遊び心を靴に入れようと思ったのか、勝手に想像するのが楽しい。YUICHI TOYAMA.の眼鏡は、テンプルの内側に白いラインを入れています。ジャックパーセルも、僕にとってはロゴ以上にブルーがアイコニックであり、そこに美学というか哲学を映しているような気がして、勝手なシンパシーを感じます。

年々、無地やソリッドなものを身につけるようになりました。しかし無味無臭なデザインには魅力を感じません。服もシューズも音楽も、どこかに癖がないと物足りない。新しいジャックパーセル1935は、アウトソールが白だったり、ライニングがレザーだったり気になるポイントがある。すごくシンプルですが、心地よい癖を感じます。シューズにおいては、未来に向かって進化するよりも、過去に戻りながらアップデートしていると自分の生活やファッションにも取り入れやすい。このジャックパーセルは、履きやすさ、美しさといった原点に意識を向けるために、スペックを変えている。それがマニアのためのディテールではなく、醸し出す全体の雰囲気に表れているところが好きです。

外山雄一
Yuichi Toyama

1971年東京都生まれ。御茶ノ水美術専門学校でデザインを学んだのち、1993年に福井県の眼鏡メーカーに就職し、デザインの道へ。マーケティングや企画開発も深く携わったのちに独立。フリーランスを経て2009年に自身のブランドをスタートし、2017年にYUICHI TOYAMA.を設立。2024年4月には、青山骨董通りに旗艦店をオープン。

STAFF CREDIT
Photography_Asuka Ito
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)