人生のジャックパーセル
Vol.3 Naotsugu Yoshida
誕生から90年を迎えたジャックパーセルは、「歴史へのリスペクトと未来への継承」をコンセプトに、自らのものづくりを見つめ直し、「ジャックパーセル 1935」をローンチしました。このシューズと同じように、ルーツを大切にしながら次の一歩を選び続けてきた人たちに、自身のファッションの遍歴や仕事に対するプライドを尋ねました。紡ぎ出される一つ一つの言葉は、このシューズの魅力と重ねることができます。
過去のものには興味がない
久しぶりにちゃんとコンバースを履いて、改めてスニーカーは日常のものだと感じました。僕はハレ(非日常)とケ(日常)の違いみたいなものに興味があるので、そこはきちんと分けたいと考えています。だから日常の中で使うものは、日常のためにあるいいものを選びたい。この「ジャックパーセル1935」は、スタンスが普段履きであるところがいい。そして長い歴史をもちながら、クオリティを高めようと上を目指した結果に作られたものに共感しています。いわゆる運動の、スポーツのための靴には最新の技術がどんどん入っていくけれど、「ジャックパーセル1935」はそうでないところでブラッシュアップしていくんだ、と感じました。

高校生のくらいの時は、恥ずかしくなるくらい、雑誌を端から端まで舐めるように読んでいました。それしか情報がなかったですから。
当時は、アメカジや古着が流行っていて、バッシュブームみたいなものがあって。スニーカーよりもバッシュ。みんな大きめのサイズを履いていましたが、僕にはそのスタイルが馴染めませんでした。その時にコンバースのジャックパーセルに出会い、履き始めた記憶があります。星もなく、大人しい感じが、派手なロゴや柄のシャツを着られなかった自分にしっくりきました。

ずっとシンプルなものが好きでしたが、年齢も重ねて「楽なもの」も選ぶようになりました。「普通でいい」と片付けてしまうと、ちょっと乱暴になるんですが、普通に見える中にある作り手のこだわりみたいなものにときめいたりします。無地のシンプルなTシャツがすごく綺麗に見えると、そういったものほど着心地がよかったりするもの。器も服も下心というか、狙いが透けて見えると拒否反応を起こしてしまいます。控えめでありながら、どこか小さなポイントでこっそり見える、そのくらいの存在が好きだったりします。

ヴィンテージにはあまり関心はありません。今のために作られているものが好きです。それを身につける、使えることは、今を生きている自分たちの特権だと思うから。もちろん昔の人が作ったものに価値はありますが、それは僕の興味の対象ではありません。自分の制作に関しても、昨日より今日、今日より明日へとよくなっている感覚を楽しみたいです。10年前の作品と今とでは全然違うし、定番みたいなものがあるようでない。コーヒーカップや取り皿も作り続けていても、形は一様には揃いません。というよりも揃える気がないんです。だから展示などで過去と同じ作品を求められても応えられないのです。

同じかどうかはわかりませんが、形やものづくりの考え方に、師匠の影響は大きいと思います。黒田さんはつねづね「作らなければうまくはならない」、「作るだけではうまくならない」の両方をよくおっしゃっていました。たくさん作らないと技術は育たないし、技術ばかりが上達しても作りたいものがなければ何も変わらない。どちらも大事ですし、必要だと思います。

そばにいて、しんどくないもの
そう思うと、「シンプルであること」と「定番であること」は似ているようで、その意味は違います。僕にとっての定番は「生活を共にして、しんどくないもの」でしょうか。どんなに美しいものであっても、そばに置いて気疲れしてしまうものはスタンダードになりません。いつもそこにあり、普段は何も気にならないけれど、それが違うものに変わった時に何だか物足りなさを感じる。それが理想です。もちろん、そばに置き続けることで、気にならなくなるものもあるでしょうけど、そもそも最初から嫌なものはそばに置きません。ちなみに家の食器はすべて自分で作ったものです。おかげで心穏やかに過ごしていますが、それが定番かといえば、ちょっと意味が違うかもしれません。

器において一番興味があるのは形です。形を突き詰めようとすると、色やテクスチャーが邪魔になってしまう気がして、できるだけ他の要素を削ぎ落としてきた結果、今に至っています。独立したばかりの頃は、黒田さんと同じ白磁を作ることに怖さがあって、最初の5年間は黒ばかり作っていました。そのうち紅茶を扱う友人と一緒に展示をするようになり「お茶が見えないから」という理由でティーカップを作り始めたのが、白磁の始まりです。

白磁は、余計な表現の要素を考えずに作ることができるので、形そのものが際立って見える。それって白いジャックパーセルも似ているのかな、と思いました。造形としては、全体のフォルムが好きです。さらに挙げるとトウの部分が可愛らしくて好きです。よりよいものが思いついたら、さらに新しく作り直していく。そのくらいの柔軟なスタンスであって欲しいです。そう考えると、今ここにあるものは、今履いておかないと勿体ないですよね。今日のジャックパーセルが一番で、どんな格好に合わせようか考える。日常のためにあり、気兼ねなく履ける。真っ白で、そばにいてしんどくない。スタンダードになる存在だと思います。

吉田直嗣
Naotsugu Yoshida
1976年、静岡県生まれ。東京造形大学を卒業後、陶芸家・黒田泰蔵氏に師事。2003年に独立し、同県駿東郡で作陶をはじめる。白と黒を中心にした器を制作し続けている。
STAFF CREDIT
Photography_Asuka Ito
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)